2階建てバスの2階で始まった恋
俺は今仕事の関係でロンドンに住んでいる。
ロンドンは住むには聞いていた以上にひどいところで、例えば、地下鉄の初乗りは3ポンド。
今のレートだと、660円くらいはすることになる。
かといってサービスがいいわけじゃないっていうのがまた悩ましい。
まあ、他にも生活してていろいろな問題はあるが、大体は同じようなもん。
高くてサービス悪い。
まあ、これは余談。
今住んでいるところも、当然日本に比べると高い。
でも、地下鉄が通っていないところだから、そこそこ安くなっている。
バスで通わなければいけないわけだが、俺は、バスは嫌いじゃない。
いつも使っているバスは二階建てなんだが、二階に座って、ときどき仕事の書類とかをみながら、街を眺めるのは悪くない気分だ。
この前、夜10時ごろ、いつものようにバスの2階の席に座って、書類を眺めていた。
帰り道のことだ。
所要時間は大体30分くらい。
途中で隣に若い女の子が座ってきたが、そんなのはいつもあること。
俺は、窓際の席で書類と外を見ていた。
書類って言っても、臨床心理に関するもの。
日本人らしく、蛍光ペンでせっせと要点をなぞっていた。
あと5分くらいで自分の家の近くになろうかというころ、その女の子が不意に話しかけてきた。
「何をなぞってるの?」
あまりに突然のことでちょっとびっくり。
「仕事の書類だよ」と俺。
普通に返答。
彼女「ふーん。面白い?」
俺「そんな面白くはないけど、まあ、しごとだからね」
彼女「そっか」
何の盛り上がりもなく、その場は終わった。
ロンドンにいると、こういうことはときたまある。
バスで話しかけられるというのは初めてではなかった。
その会話から、ちょっと気になったので、よくその子を見ると、けっこう魅力的な雰囲気がある。
顔はちっちゃくて、例えるなら、クロエ・セヴィニーみたいな感じ。
背は155センチくらいだろうか。
細身で、黒いタイツをはいた脚がすらっとしていてエロい。
しばらくして、バスが俺の降りるところに着いた。
すると、彼女もどうやら一緒に降りる様子。
バスを降りるとき、ちょっとだけ笑顔を交わす。
普段ならそこで何事もなく、家に帰る。
タバコをすいながら。
その日は違ってた。
タバコに火をつけたとき、彼女が近寄ってきて、火をくれと言ってきた。
「寒いね」と俺。
「うん」と彼女。
「飲みにでも行こうか」
普段はこんなこと言わないんだが、このときは自然にそう言ってしまった。
返事も自然。
ごくごく当然のことを言われたかのように、そうしようと彼女は言った。
タバコを吸ったまま、すぐ近くのパブに入る。
話を聞くと、大学生だと言う。
専門の科目に何も興味が持てないのだと言う。
なるほど。
面白いか?と聞いてきたわけが少しわかった。
その日は金曜の夜。
クラブに行こうかと、クラブの外で列に並んでみたけど、ばかばかしくなって、気付いたらバスに乗って帰ってた、と彼女は言っていた。
自分が日本で大学生をしていたころのことも思い出し、どこでもそんなに変わらないんだなと思い、彼女に共感を覚えた。
そこからは、お互いの境遇や気持ちを話し、飲み始めたのは12時前だったが、気付いたら2時を回っていた。
さすがに帰ろうという話になって、パブを出る。
彼女は、「家はこっちなんだ」と、俺の家とは違う方向を指差す。
何も言わずにいたら、俺の胸に飛び込んできた。
一緒にいようよ、と言われた。
俺の家に着き、ベッドに転がり込む。
キスをしながら、お互いの服や靴なんかを脱がせあう。
安っぽいベッドのスプリングが、その日は気にならないくらいに荒々しく。
あっという間に裸になり、抱き合う。
体温を確認しあうような感じ。
そこからは彼女主導。
手が俺のペニスに伸びてきて包み込む。
堅くなっているのを確かめ、笑顔を俺にみせる。
いとおしくなり、彼女の胸を触り、キスをする。
彼女の口からはぁという息が漏れる。
息遣いだけで彼女も俺もお互いの快感を探り当てていた。
お互いの体を手でさすり、口で愛撫するうちに、自然と彼女の中に入った。
ほとんど膣の中の愛撫はしていない。
それなのに、溢れるくらいに濡れ、熱をもっていた。
彼女はほとんど声をださない。
時折もれる、んっという声。
たまにちらっとこっちをみて、すぐに目を伏せる。
全てが完全に俺の好みだった。
お互い汗まみれになるくらいになったころ、俺は彼女にいきそうだと言った。
彼女からはgive me yoursという言葉。
中に出していいということなのかもしれないが、確信がもてなかったので、彼女のお腹の上にだした。
俺のペニスをくわえる彼女。
口に出せということだったようだ。
結局彼女は日曜日の夜まで俺のフラットにいた。
セックスをし、料理を作り、寝るという生活。
俺はこっちに来てから、誰とも付き合ったことがなかった。
正確に言うと付き合いたいやつもいなかった。
正直、こっちの女とわかりあえる自信がなかった。
でも、この2日間で、不思議と、彼女とならお互い満たしあえるんだって思ってしまった。
彼女に、また会いたい、付き合いたいと言った。
ちょっと照れながら、そのつもりだと彼女は答えた。
ほっとして、何がきっかけだったの?と彼女に聞いてみた。
Your eyesとしか言わない。
それなら、整形しない限り、好きでいてくれるの?と言ってみる。
彼女ははにかんだように笑う。
たぶん、実際付き合うと楽しいことばかりでもないだろう。
それはわかる。
でも、この平板な毎日に降って湧いたような彼女の出現を俺は大事にしたいと思ってる。